Liveblocks — AIと人間が同じroomで働く基盤
2026-05-26

Google ドキュメントを誰かと一緒に開くと、相手のカーソルが動いて見え、選んでいる範囲が分かり、文字を直せばこちらの画面にもすぐ反映される。Figma を開けば、同じ画面を複数人で触りながら、横にコメントを付けて会話できる。こうした「複数人が同じ画面を同時にいじる」体験は、もう特別なものではなく、多くのアプリで当たり前に期待されるようになった。
問題は、これを自社のプロダクトに後付けしようとすると意外に重いことだ。誰がどこを見ているか、変更が衝突したときどちらを優先するか、回線が切れたら、履歴は、通知は。考えることが一気に増える。Liveblocks は、この「複数人で同時に編集する仕組み」、すなわちリアルタイム共同編集インフラを、部品として後付けできる形で売っている会社だ。
たとえば Notion 風のメモアプリを作っているとする。Liveblocks の React フック(useOthers() / useStorage() など)を数行入れるだけで、相手のカーソル、選択範囲の同期、文字のリアルタイム編集、コメント、メンション、未読通知が足せる。ゼロから実装する代わりに、共通して必要になる部分を借りてくる、というのが基本の使い方になる。
実際にこれを組み込んでいる会社を見ると、用途の幅が分かる。Resend は社内のメールエディタを Google ドキュメント風の同時編集ツールに変え、Vercel はライブ配信中の絵文字リアクションに使っている。Rippling は 1on1 用のドキュメントを共同編集できる形にし、Magic Patterns は AI デザイン canvas を複数人で同時に触れる場にした。表に見える形は「メモ」「配信」「canvas」とばらばらだが、裏で動いているのは同じ部品の組み合わせだ。
2025 年以降、ここに相手がもう一種類加わった。共同作業の相手として、AI が同じ場所に入ってくるようになっている。Liveblocks は AI を「画面の右下に出るチャット」としてではなく、人間と同じ作業空間に入る参加者として扱う設計を取った。AI がコメントを読み、共有された状態を直接書き換え、通知を出し、自分が何をしたかを履歴に残す。この記事では、Liveblocks をこの「人間と AI が同じ場所で働くための基盤」として読み解いていく。
会社の輪郭も押さえておく。Steven Fabre と Guillaume Salles が 2021 年に創業し、同年に 140 万ドルの pre-seed、翌 2022 年に 500 万ドルの seed を調達した。顧客には Vercel、Typeform、Resend、PostHog、Dropbox、Cisco が並ぶ。中核は共同編集、コメント、通知、AI Copilot の 4 つで、価格や使用量の細かい数字は各章で触れていく。
1. すべては「部屋」を 1 つ決めることから始まる
先に Liveblocks の基本情報をまとめておく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創業 | 2021 年(Steven Fabre、Guillaume Salles 共同創業) |
| 資金調達 | 2021 年 pre-seed $140 万、2022 年 seed $500 万 |
| 製品・機能 | 共同編集(Multiplayer)、コメント、通知、AI Copilot、agent workflow API |
| 顧客 | Vercel、Typeform、Resend、PostHog、Dropbox、Cisco など |
| 料金 | Free / Pro(年払い月 $25)/ Team(年払い月 $500)/ Enterprise(個別見積もり) |
| AI 対応モデル | OpenAI、Anthropic、Google Gemini、OpenAI 互換 API |
この基盤を使うとき、開発者が最初に決めるのは「何を 1 つの作業空間にするか」だ。Liveblocks はこの単位を room、つまり部屋と呼ぶ。考え方は素直で、1 つの編集対象を 1 つの部屋に対応させればいい。メモなら 1 ページが 1 部屋、canvas なら 1 ファイルが 1 部屋、チケットなら 1 イシューが 1 部屋、社内ダッシュボードなら 1 グラフ画面が 1 部屋、という具合だ。
部屋に入ると、その中で「いま誰が見ているか」「全員で共有している状態」「コメント」「メンション」「通知」が動き出す。Notion 風メモアプリに <RoomProvider id="page-123"> を置いてエディタで useOthers() を呼べば、そのページを今開いている他のユーザーのカーソルが取れる。部屋という箱を 1 つ決めるだけで、同時編集に必要な仕掛けがまとめて立ち上がる。
そして AI も、この同じ部屋の中に入る。ここが Liveblocks の発想の中心になる。AI を別タブの右下チャットに隔離するのではなく、ユーザーと同じドキュメントを見て、同じコメントを読み、同じ共有状態を書き換える側に立たせる。だから以降の機能はすべて、この「同じ部屋に人間と AI が一緒にいる」という前提の上に積み上がっていく。

参考: Liveblocks Concepts / Liveblocks GitHub
2. 同時編集の部品は、もう各社で作り直す必要がない
部屋の中で最初に動くのが、複数人で同時に触るための機能群だ。Liveblocks はこれを Multiplayer と呼ぶ。組み込めるのは、ライブカーソル、参加者の顔アイコンが並ぶ表示、他人が今選んでいる範囲が見える表示、文字編集の同期、取り消しとやり直し、オフライン対応あたり。エディタを作るなら Tiptap、Lexical、BlockNote、Yjs といった主要ライブラリにも公式で対応している。
これを自前で作ろうとすると、同期、衝突解決、再接続、履歴、権限といった論点が一度に立ち上がる。そこへコメント、通知、未読管理、メール送信、Slack 連携まで足すと、それだけで小さなプロダクトが 1 つできてしまう。Liveblocks はこの「どのプロダクトでも結局必要になる横断部分」を肩代わりしているので、開発側は自社固有の画面と機能に時間を使える。
Quartr が決算の一次資料を集める運用そのものを価値にしていたように、Liveblocks は共同編集の運用部品そのものを価値にしている。表に見える機能ではなく、その裏で誰もが必要とする土台を引き受けているわけだ。

参考: Liveblocks Multiplayer / Quartr 記事
3. AI Copilot は「答えるチャット」ではなく「作業する道具」
その同じ部屋に AI を入れる入口が、2025 年以降の中心機能である AI Copilot だ。見た目はチャットに近い。ただし、できることが「質問に答える」で止まらないところに違いがある。
たとえばメモアプリで「この議事録から宿題だけ抜き出して、Linear のチケットにして」と頼んだとする。Copilot は文書を読んで宿題を抜き出し、Linear への登録までを実行できる。社内ダッシュボードで「先月の売上を CSV で出して」と頼めば、データを引き、CSV を作り、ダウンロードリンクをチャットの中にボタンとして表示する、という作り方もできる。文章を返すだけでなく、アプリの中で手を動かすところまで踏み込んでいる。
これを支えるのが Copilot の 4 つの構成要素だ。過去のやり取りを保存して会話の前提を保つ chat history、Copilot が読んでよい情報源として website や PDF、画像を登録する Knowledge、アプリ自身の状態を読み書きしたり外部サービスを呼んだりする Tools、そして返答としてグラフや確認ボタンを画面に出せる Custom component。とくに Tools と Custom component が、AI を「答える」から「作業する」へ押し上げている。
対応するモデルの提供元は OpenAI、Anthropic、Google Gemini に加えて、OpenAI 互換の API も選べる。ここから分かるのは、Liveblocks が売っているのは AI モデルそのものではない、ということだ。売っているのは、プロダクトの中で AI が実際に作業するための UI、記憶、権限、実行手段の組み合わせのほうにある。

参考: AI Copilots 機能 / Liveblocks 3.0 発表
4. AI を「裏方の処理」から「画面に現れる参加者」へ
2026 年の更新で、AI の作業を扱うための API と、その記録を残す Feeds が追加された。ここで方向性がはっきりする。AI を裏で黙々と動くバッチ処理ではなく、人間と同じように画面に現れて操作する参加者として扱おう、という設計だ。
追加されたのは大きく 4 つ。AI が部屋の中に名前とアイコンで現れる仕組み、共有された状態を差分で書き換える仕組み(JSON Patch)、コメントに添付されたファイルを読む仕組み、そしてチャットや AI の作業ログ、操作の記録を部屋に残す Feeds だ。
これらが揃うと、AI が「何を見て」「何を変えたか」を画面に出せるようになる。すると人間側で、確認し、差し戻し、承認する流れを組める。B2B のソフトウェアでは、この記録と承認がそのまま導入の条件になることが多い。AI を業務に入れるとき問われるのは、回答の文面より、誰が何をしたかを後から追える設計のほうだ。

参考: Agent workflow API 発表 / Agentic workflow guide
5. 顧客事例は、編集ツールの外まで広がっている
ここまでの部品の上に、実際の顧客がどんなものを載せているかを見ておく。冒頭で挙げた Resend、Vercel、Rippling、Magic Patterns、Hashnode を並べると、用途はエディタだけに閉じていない。メールエディタ、ライブ配信、1on1 ドキュメント、AI デザイン canvas、チーム記事エディタと、表に出る画面はばらばらだ。
それでも共通点がある。どれも「同じ対象を複数人で扱う」という構造を持つ。文書、配信、1on1、canvas、記事編集。扱うものは違っても、必要な部品は似てくる。参加者の表示、状態の同期、コメント、通知。だから 1 つの基盤で全部受けられる。表側の用途が散らばっても、裏側で必要なものは収束する、というのが顧客の広がりの理由だ。

たとえばコメントひとつ取っても、メールエディタなら文面への指摘、AI canvas ならデザインへのフィードバック、記事エディタなら編集者からの注釈と、貼り付く対象は変わる。それでもスレッド、メンション、解決済み管理といった中身は同じだ。通知も同様で、誰かがコメントを付けた、メンションされた、という出来事を未読として届ける仕組みは、用途が違っても共通して効いてくる。

Whop の構造ともよく似ている。Whop は表側がクリエイター向けのプロダクトに見えても、裏側の決済や権限が価値を作っていた。Liveblocks も表側は UI に見えて、実際に価値を作っているのは裏側の同期と通知のほうにある。
参考: Liveblocks Customers / Resend case study / Whop 記事
6. 料金は「使った量」に連動して積み上がる
裏側で価値が出る作りは、料金にもそのまま表れる。プランは 4 段階だ。Free は試作向け、Pro は年払いで月 25 ドル、Team は年払いで月 500 ドル、Enterprise は個別見積もり。Pro には月 30 ドル、Team には月 600 ドル分の利用枠が付く。Team になると SOC 2、SAML SSO、HIPAA 対応、専用 Slack チャンネルも入る。
そのうえで、使った量に応じた課金が乗る。リアルタイムの共同編集時間は Free で月 3,000 分まで、超えると 1 分 0.002 ドル。状態の更新回数は Free で月 300 万回まで、超過分は 100 万回あたり 1 ドルになる。
つまり料金は、共同作業が増えるほど積み上がる形だ。コメント、通知、AI とのやり取り、参加者の表示が活発になるほど使用量が伸びる。導入する側からすると、機能の良し悪しだけでなく、使われるほど費用がどう増えるかまで合わせて見ておく必要がある。

参考: Liveblocks Pricing / Pricing plans docs
まとめ:Liveblocks を 6 点で整理する
- 単位は部屋(room)。文書、canvas、作業画面など、共同作業が起きる場所を中心に設計する
- 同時編集は共通部品。カーソル、状態同期、コメント、通知、未読管理を基盤として肩代わりする
- AI Copilot は作業する道具。chat history、Knowledge、Tools、Custom component をまとめて持つ
- AI は画面に現れる。参加者表示、差分更新、Feeds により、AI の作業を後から追える形にする
- 顧客事例は横断的。メールエディタ、ライブ配信、1on1、AI canvas、記事編集に広がる
- 料金は使用量と連動する。コメント、通知、編集時間、更新回数が原価と価格に出る
Liveblocks を読むときの要点は、リアルタイム API そのものより、人間と AI が同じ場所で働く設計のほうにある。AI を別画面のチャットボットに置くのではなく、人間と同じ画面に入れて、状態の変更と履歴をきちんと扱う。この見方をすると、Liveblocks は「共同編集の会社」というより、人間と AI が一緒に働ける画面を売っている会社として見えてくる。
参考リンク
- Liveblocks 公式
- Liveblocks GitHub
- Liveblocks Docs
- Liveblocks Concepts
- Liveblocks Multiplayer
- Liveblocks AI Copilots
- AI Copilots features
- Introducing Feeds and APIs for Agent Workflows
- Agentic workflows guide
- Meet Liveblocks 3.0
- Liveblocks Pricing
- Pricing plans docs
- Liveblocks Customers
- Resend customer story
- Liveblocks $1.4M pre-seed
- Liveblocks $5M seed
- Quartr — Bloomberg と Yahoo Finance の間にできた IR データ供給層
- Whop — Discord グレーマーケットから Tether $200M までの 4 層スタック
この記事は、調査・記事制作に特化したAIエージェントと、人の編集で作っています
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