Whop — Discord グレーマーケットから Tether $200M までの 4 層スタック

2026-05-11

Whop の売り手向けダッシュボード全体画面。今日の売上 $590,424、引き出し可能残高 $12,283,829、ペイアウト $1,000,000 と、左サイドに Products / Checkout links / Payments / Payouts / Affiliates などの管理メニューが並ぶ
出典: Whop blog — Whop 3.0 セラーダッシュボード(2025/08 時点)

Discord で「有料の会員グループ」に入ったことのある人は、その入会のしかたを思い出してほしい。運営者に個別に送金し、確認を待って、手作業でロール(メンバー資格)を付けてもらう。解約したくても、運営者が忘れていればグループに残り続ける。送る側も受け取る側も面倒で、しかも詐欺と隣り合わせだった。Whop は、この入会と支払いをひとつのボタンに変えるところから始まった会社だ。

たとえば、Discord で暗号資産の売買シグナルを配信している人がいるとする。その人は Whop 上に月額 $30 の会員枠を作る。購入者がボタンを押して支払うと、対応する Discord のロールが自動で付き、解約や決済失敗があれば自動で剥がれる。動画コースやチャットを足したいなら、部品を組み合わせるように機能を追加していく。この一式が、Shopify でいう「ストア」にあたる単位になる。

ここまでだと、クリエイター向けの便利な決済ツールに見える。ところが Whop の売上の内訳を開けると、稼ぎ頭は会員サブスクの月額ではなく、その裏で動いている決済処理そのものだ。年率売上は $142M(2025/10、Sacra)まで伸び、そのほぼ全てを決済まわりが生んでいる。Whop を理解するには、表向きの顔ではなく、この決済を軸にした 4 つの層を順に見ていくのがいい。

そこを縦に積んでいるのが Whop の特徴だ。Patreon や Gumroad は売上から一定割合を取る手数料モデル、Stan Store は月額サブスクモデルで、いずれも 1 つの稼ぎ方に寄っている。Whop はそれを 1 層目に置いたうえで、決済の自動振り分け、切り抜き動画の労働市場、残高を預かる銀行機能までを上に重ねていく。以下、4 層の中身を順に見ていく。

1. Whop は Discord のグレーマーケットの決済から始まった

先に Whop の基本情報をまとめておく。

項目内容
創業2021 年 3 月、米国ニューヨーク・Brooklyn
経営陣CEO Steven Schwartz、CGO Cameron Zoub、CTO Jack Sharkey
年率売上2023 年 $23M → 2025/10 $142M(Sacra)
累計 GMV$2.67B(2026/02 時点、RockWater)
月間 GMV2024/12 $80M → 2025 春 $100M+(Sacra)
利用者売り手 18.4 万人 / 購入者 1,840 万人
決済対応187+ ヶ国・135 通貨・100+ 決済手段、ペイアウト 144 ヶ国
開発組織15〜20 名で $1.2B+ GMV を運用(Sourcery)
累計調達$273M。直近は 2026/02 の Tether 出資 $200M(評価額 $1.6B)
主要プロダクトHubs / Whop Apps / Whop Pay / Whop Clips / Whop Treasury

創業者 3 名は 10 代から Discord 内のグレーマーケットを当事者として運用していた。扱っていた領域はスニーカーボット販売、トレードシグナル販売、サブスクコミュニティなど。グレーマーケットとは、違法ではないが正規の決済代行が嫌がる、凍結されやすい商いの領域を指す。

CEO Steven Schwartz と CGO Cameron Zoub は 13 歳のときスニーカーボットの Facebook グループで知り合い、CTO Jack Sharkey は Zoub の高校時代の友人として後に合流した(CNBC, 2023)。当事者として育ったからこそ、この領域の痛みを肌で知っていた。

転機は 2020 年 12 月だった。Schwartz は知人経由でソフトウェアの売買フォーラムを見て、「決済まわりの使い勝手と詐欺対策が崩壊している、ここは決済とカスタマーサポートの知見で巻き取れる」と判断したという(Sourcery)。彼が見ていた痛みは、3 つに整理できる。

  • Discord のロール販売を手作業の送金で回していて、運営が破綻していた
  • 詐欺リスクを嫌って、Stripe や PayPal がこの層をすぐ凍結していた
  • それでも需要は途切れなかった(スポーツベッティング、暗号資産シグナル、デイトレードを求める Z 世代)

この 3 点をひとまとめにしたのが Whop V1(2022 年ローンチ)だ。中身は、決済の自動振り分け(決済オーケストレーション)、Discord の自動ロール付与、そして売買の場であるマーケットプレイスの組み合わせだった。決済オーケストレーションとは、複数の決済会社を裏で並行して使い、止まったらほかの経路へ自動で切り替える仕組みを指す。

その後の広げ方には一本の線がある。Discord ロール販売からマーケットプレイス、決済、そして銀行機能へと進み、各段階で前の顧客を抱えたまま次の層を足していった。事業を乗り換えたのではなく、同じ顧客の上に層を積み増したのが Whop の伸び方だ。

参考: CNBC: Whop founders' teenage side hustles / Sourcery: How Whop Hit $1.2B+ GMV with 20 Engineers

2. 売り手・買い手・開発者をつなぐ 3 面の市場

決済から始まった Whop は、その上に売る人と買う人が出会う場を載せた。正確には、売り手・買い手・開発者という 3 つの面が同時に成り立つマーケットプレイスとして設計されている。

主なプロダクト対象ユーザー数
クリエイター面(売り手)Hubs / Whop Apps / Whop Pay / アフィリエイトデジタル商材売り手 18.4 万人
購入者面(買い手 + クリッパー)Discover / Whop ID / モバイルアプリ / Wallet / Whop Clipsユーザー 1,840 万人
第三者開発者面Whop App Store / dev.whop.com / SDKサードパーティ開発者

中核は Hub。1 つの Hub は次の要素から構成される。

  • メンバーシップ階層(無料 / 有料 / 単発 / サブスクリプション)
  • インストール済み Apps(Chat / Courses / Forums / Help Desk / Affiliates / Bots / Events / Files)
  • 決済設定(Whop Pay 直接 / Stripe Connect 経由)
  • Discord / Telegram 自動ロール付与(購入で付与、退会で剥奪)
  • メンバー DB(購入履歴・コンテンツ視聴履歴・チャット履歴)

これは Shopify でいう「ストア」にあたる単位だ。クリエイターは Hub を 1 つ作り、必要な機能を組み合わせて自分の商売を組み立てる。

3 つ目の面が開発者だ。App Store は 2025/09 に Whop 3.0 と同時にローンチし、第三者開発者向けの開発キット(SDK)と、3 種類の収益分配を用意した。買い切り $500〜$2,000、売上分配 10〜30%、会員ごとの月額のいずれかを選べる。外部の開発者が機能を作って売れる場を用意することで、Whop 自身が全部を作らなくても Hub に載る機能が増えていく。

Whop App Store の画面。Chat、Courses、Livestreaming、Discord 連携など第三者開発者を含むアプリ一覧
出典: Whop blog — Whop App Store(2025/09 時点)

買い手が集まる入口が Discover(マーケットプレイス内の検索)で、月間利用者は 400 万人。2025/05 に検索経由にかかっていた 30% の上乗せ手数料を撤廃し、すべての売上にかかる取り分(take rate)を 5.5% に統一した。検索からの流入を割高にしない方が、結局は流通額が増えるという判断だ。

参考: Sacra: Whop revenue, valuation & funding / Whop blog: Whop App Store

3. 売上の約 98% は決済まわりが稼いでいる

3 面の市場が回ると、その上で決済が走る。そして Whop の儲けは、市場そのものよりも決済の取り分から出ている。収益を 4 つの層に分けると、1 層目がマーケットプレイスの取り分(take rate)、2 層目が決済 1 件ごとに積み上がる手数料で、この 2 つの合計が年率売上 $142M のほぼ全てを生む。

fee 構造主な課金対象
Layer 1マーケットプレイス take rate 5.5%Hub 内のすべての売上
Layer 2Payments Network の layered fees決済処理 1 件ごと
Layer 3Clips / Content Rewards take 10%クリッピングキャンペーン
Layer 4Treasury / Wallet(AUM × 利ザヤ)残高フロート

2 層目の手数料は、決済 1 件のうえに細かく積み上がる。内訳はこうなる。

  • 基本の決済処理: 2.7% + $0.30(Stripe 標準と同水準)
  • 海外カードの上乗せ: +1.5%
  • 通貨換算: +1.0%
  • 自動振り分け(オーケストレーション): 0.8%(Stripe 単独契約では発生しない)
  • 後払い(Klarna / Afterpay): 15%
  • 不正対策: 1 件あたり $0.07

このうち振り分けの 0.8% が、Whop ならではの取り分だ。Stripe だけと契約していると、スポーツベッティングや暗号資産シグナル系の売り手はすぐ凍結される。Whop は複数の決済会社(高リスク向けの決済引受会社を含む)を裏で並行して動かし、片方が断っても別の経路で通す。だから 0.8% は「ほかの決済会社では通らず売れなかったはずの売上」への対価になる。

Sacra の推定では、1 層目が年間 約 $66M、2 層目が年間 約 $80M。合算は約 $146M で、二重に数えた分を調整して報告売上 $142M に着地する。Whop の実態は、表向きのクリエイター向けツールではなく、グレー領域も通せる決済の請負業者だと見たほうが数字に合う。

参考: Sacra: Whop at $142M revenue / Whop blog: How to share revenue on Whop

4. Whop Clips は売上ではなく集客の仕組み

決済が稼ぎ頭なら、その決済に乗せる流通をどこから連れてくるか、という問いが次に来る。その答えのひとつが Whop Clips だ。

仕組みを語る前に、切り抜き動画を作る人(クリッパー)と、その作業(クリッピング)を説明する。クリッパーとは、長い動画から短い切り抜きを作る個人だ。配信者のライブ、ポッドキャスト、企業の発信などから 30〜60 秒の縦動画を切り出し、TikTok や Reels、Shorts に投稿する。

出し手は、元の動画を持つ側(配信者、ポッドキャスター、ブランド)になる。「自分のコンテンツを切り抜いて広めてくれた人に、再生数に応じて払う」というキャンペーンを立てる。クリッパーはそれを受けて切り抜きを作り、各 SNS に投稿する。Whop Clips は、この出し手とクリッパーを引き合わせる場だ。Whop が視聴数を追い、1,000 視聴あたり $1.25(YouTube クリップの場合)で報酬を払う。

要するに Whop Clips は切り抜き職人の労働市場で、出し手は再生数を買い、クリッパーは作業時間を売る。Whop が両側をつなぎ、計測と支払いを引き受ける。

ところが、ここから入る取り分は小さい。月間の支払い総額は $190K で、Whop の取り分 10% で計算すると、Clips そのものの年間売上は $228K。会社全体の $142M の 0.16% にしかならない。それでも Whop が Clips に力を入れるのは、これを集客の仕組みとして回しているからだ。

指標数字
累計再生数3.5B views(100M+ 日次)
参加クリッパーコミュニティ98 万人
進行中キャンペーン780+
月間ペイアウト$190K(年間 $2.28M)

月 $190K の支払いで月間 1 億回の視聴が付く。1,000 視聴あたり $0.06 という単価で、TikTok や Reels、Shorts に Whop のコミュニティを露出させる広告費として働いている。通常の広告出稿よりはるかに安く、外部 SNS への露出を買っている計算になる。

役割で並べると、広告主が Whop 上の売り手、媒体が TikTok / Reels / Shorts、配信を担うのがクリッパー、視聴を数えるのが Whop の内部計測だ。Whop Clips は、外部 SNS に自社コミュニティを流し込む広告ネットワークとして機能している。なお報酬の単価は 1,000 視聴あたり $1.25(YouTube クリップの場合)と公式に公開されている(Whop blog)。

Whop Clips の Content Rewards 画面。YouTube Clips キャンペーンの報酬進捗(月間 $190,000 枠)とクリッパーのコミュニティが並ぶ
出典: Whop blog — Whop Clips Content Rewards(2025/04 時点)

参考: Whop blog: Whop Clips overview / Digiday: WTF is clipping?

5. Tether 提携と Whop Treasury が仕込む銀行機能

4 層目はまだ売上にほとんど効いていない。それでも、決済で動かしたお金を Whop の中に留めておくための一手として置かれている。2026/02、ステーブルコイン大手の Tether が Whop に $200M を評価額 $1.6B で出資した。続く 2026/03、Whop は残高を預けて利回りを得られる Whop Treasury をローンチした。

中身はこうなる。

  • 提供利回り: 最大 6% APY、秒単位の複利、引き出し制限なし
  • 預ける資産: USDT0(ドル連動の USDT を Plasma というブロックチェーン上で発行した形)
  • ウォレット基盤: Tether の開発キット(WDK)
  • 利回りの出どころ: Aave(資産を貸し出して金利を得る分散型の仕組み)
  • 入金経路: カード(MoonPay 経由)/ 暗号資産ウォレット / Whop 内残高からの自動振替
  • 対象: Whop 上の売り手と個人ユーザー
  • 注意: 預金保険の対象外で、利回りは保証されない

狙いは、売り手が受け取ったお金を銀行に出さず Whop 内の残高として置き続けるよう促し、預かり資産(AUM)を膨らませることにある。Aave で運用して得る利回りと、ユーザーに払う 6% APY の差が Whop の取り分になる。

Aave のドル建て貸付金利は 8〜12% 帯(V3 公開データ、2024〜2025)。平均 9% で運用して 6% を払えば、約 3% が手元に残る。預かりが $100M なら年間 $3M、$1B なら年間 $30M になる計算で、いまは将来の収益源として仕込んでいる段階だ。

Tether 側の損得も同じ向きを向く。Whop が USDT の発行量を増やす経路になり、Whop は将来の利ザヤ事業を準備できる。両者の利害が噛み合うかぎりで成り立つ、先行投資としての提携だ。

Whop Treasury の残高画面。USDT 3.1% APY と Gold 保有、Cash 残高が並ぶウォレット UI
出典: Whop blog — Whop Treasury ウォレット画面(2025/08 時点)

参考: Whop blog: Whop Treasury / RockWater: Tether Invests $200M in Whop / BusinessWire: Whop Treasury launch

6. 競合との違いと、後発がまねしにくい理由

ここまでで 4 層の中身を見てきた。最後に、同じ領域の他社と何が違い、なぜ後発がそのまま追いつけないのかを整理する。まず主要な競合との収益モデルを並べる。

プラットフォーム主収益源単価式
Whop決済オーケストレーション + マーケットプレイス take ratelayered fees(2.7% + 0.8% + α)+ 5.5%
Patreonプラットフォーム手数料売上の 10%
Gumroadプラットフォーム手数料売上の 10%(+ marketplace 30%)
Stan Store月額サブスク$29 / $99
Beacons月額サブスク + 売上手数料月額 + 売上 9%
Kajabi月額サブスク$143〜$399
Memberful月額サブスク + 売上手数料月額 + 売上 4.9〜10%
Stripe Connect決済手数料2.9% + $0.30

Whop は売り手から月額を取らず、流通額に連動してだけ稼ぐ。だから売り手は無料で始められ、最初に契約する心理的なハードルが低い。手数料モデルや月額サブスクの競合とは、入口の摩擦の小ささで分かれる。

後発がまねしにくい理由は 5 つに分けられる。

  1. 決済の契約網: 187+ ヶ国・135 通貨・100+ 決済手段を同時に動かし、高リスク向けの決済引受会社とも契約している。新規参入でこの網を作り直すには 3〜5 年かかる
  2. 切り抜き職人の市場: 98 万人のクリッパーと 780+ のキャンペーンが回っている。後発が同じ単価で同じ規模の市場を立てるには、年間 $5M を超える予算が要る
  3. グレーを扱う土地勘: 創業者が当事者だったぶん、後発に欠けがちな「グレー領域を正しく捌くリテラシー」を持っている
  4. 乗り換えコスト: 売り手は購入者の Discord ロール、メールの名簿、視聴履歴を Whop に預けている。出ていくほど失うものが大きい
  5. Tether 提携: USDT0 と Plasma の統合は事実上の独占的な協業で、同じ銀行体験を組むには Tether と直接交渉するほかない

参考: Sacra: Whop revenue, valuation & funding / Sourcery: How Whop Hit $1.2B+ GMV with 20 Engineers

まとめ:Whop を 6 点で整理する

  1. 出自は Discord のグレーマーケット。創業者が当事者として味わった「決済の使い勝手の崩壊、凍結リスク、途切れない需要」を、決済の自動振り分けと Discord 自動ロール、マーケットプレイスでひとまとめにした
  2. プロダクトは 3 面の市場。Hub と Apps、Discover を中心に、売り手 18.4 万、買い手 1,840 万、第三者開発者を 1 つの土台で束ねている
  3. 収益の約 98% は 1〜2 層目。マーケットプレイスの取り分 5.5% と、決済 1 件ごとに積む手数料が、報告売上 $142M(2025/10)の主力になる
  4. Clips は集客の仕組み。直接売上は全体の 0.16% だが、月間 1 億回の視聴を 1,000 視聴 $0.06 で買う広告費として回している
  5. Tether と Treasury は先行投資。$200M(評価額 $1.6B)の出資と 6% APY の USDT0 Treasury は、預かり資産と Aave 利ザヤを狙う仕込みで、Tether は USDT の流通拡大の経路を得る
  6. まねしにくさは決済の契約網と Discord での信頼にある。後発が写せるのは画面の見た目までで、運営の重さと契約網は再現が難しい

参考リンク

この記事は、調査・記事制作に特化したAIエージェントと、人の編集で作っています

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